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東京高等裁判所 昭和25年(う)2388号 判決

被告人

山川浩

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年に処する。

原審及び当審における訴訟費用はいずれも被告人の負担とする。

理由

弁護人島田武夫の論旨第一点について。

(イ)  原審において、所論のとおりの各着服横領の事実を訴因として掲げてある起訴に対し、何等訴因変更の手続を履践することなくして原判決が同判示第三及び第四のとおり、これを費消横領と認定したこと所論のとおりである。しかしながらこの程度の認定の変更にはあえて訴因の変更は必要でないと解するのを相当とする。従つて原判決には所論のような違法は存しない。論旨は理由がない。

弁護人の論旨第二点について。

(ロ)  論旨指摘の各証拠によれば、被告人が昭和二十四年五月初旬頃原判示石井馬次郎方において同人から前原吉三郎所有にかかるジョーセツト(三十ヤール)二本を代価一万五千円で販売方の委託を受け、その頃これを他に販売して受け取つた代金八千円を右石井馬次郎に交付せずその頃被告人の肩書居宅において擅に着服して横領したという起訴事実と同一の事実を認定するに十分であり、記録に徴しても右認定を覆すに足る証拠はない。しかるに原判決が右金八千円につき被告人がこれをその頃自宅その他において生活費に費消横領したものであると認定したのは明らかに事実誤認であり、記録に徴しても右原判決の認定を肯定させるに足る証拠がないことはまさに所論のとおりである。しかしながらこの事実誤認は、同じ金員についての横領行為の態様のみに関することであり、未だ判決に影響を及ぼす程度の瑕疵とは認められないから、この点をもつて原判決破棄の理由とすることはできない。

(ハ)  そして原判決のこの事実誤認の結果同判決がその認定の事実に対し証拠を附せず、またはくいちがつた証拠を附したという意味において原判決には判決に理由を附せずまたに理由にくいちがいがあるという不備あるものということもできるのであつて、論旨はまさしくこの点を指摘しているものと認められるのである。しかしながらこの判決の理由不備が右のように未だ判決に影響を及ぼすに至らない程度の事実誤認に基因するものである場合は、刑事訴訟法第三百七十八條第四号にいわゆる絶対的控訴理由として掲げられた「判決に理由を附せず又は理由にくいちがいがあること」という理由には該当しないと解するのを相当とする。従つて論旨はこれを採用することができない。

(註 本件は量刑不当により破棄自判)

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